名古屋のモノづくりの伝統とイノベーションモノづくりブランドNAGOYA

名古屋は昔から東の東京と西の京都・大阪を結ぶ交通の要所として栄え、濃尾平野の肥沃な土地とこれをもたらした木曽三川の豊かな水資源に恵まれ、明治(1868〜1912年)以降、紡績・織物や陶磁器等の生活関連産業に始まり、その後はこれらの産業を支える各種の工作機械産業が生まれた。そして、昭和の初め(1920〜30年代)には航空機や自動車の生産も相次いで開始され、今日の産業と技術の基盤を確立するに至った。

第2次大戦後(1945年以降)には、高度経済成長の波に乗って繊維や陶磁器、自動車産業が大きな発展を遂げるとともに、石油化学や鉄鋼、プラスチック等の素材関連産業も周辺に立地し、製造業の一大集積地を形成して高品質の優れた工業製品を世界市場に輸出し、日本経済の牽引役を果たしてきた。

豊田自動織機G型 陶磁器の画付け

その伝統は今日に至るまで引き継がれており、経済産業省の「平成15年(2003年)工業統計」によれば、愛知県の製造品出荷額は35兆7千億円で昭和52年(1977年)以来、27年連続で全国第1位の座を占め、第2位の神奈川県(約19兆円)とは倍近い開きがある。また、平成16年(2004年)の税関統計によれば、名古屋港の貿易額は前年より約1兆円増加して11兆円を超え、4年連続の日本一であると同時に日本の貿易黒字額の43%を占める稼ぎ頭となっている。

さらに、愛知・岐阜・三重を含む名古屋大都市圏に広げてみると、全国シェアの高い製品が数多く存在する。生産額に占める全国シェアが50%を上回る製造品目だけをみても、タイル(94.2%)、毛織物(86.4%)、碍子(79.8%)、陶磁器飲食器(74.8%)、カーエアコン(73.5%)、内燃機関電装品(59.9%)、航空機・同部品(55.6%)と幅広い産業にわたっている(中部経済産業局編『東海・北陸経済のポイント』平成14年(2002年)版より)。

プリウスS 日本最高のバイオリン製造会社

しかしながら、昭和50年前後(1970年代)のオイルショックや昭和60年(1985年)のプラザ合意以降の円高など、大きな経済環境の変化は当地域の産業集積にも少なからぬ影響を及ぼしている。繊維や陶磁器の産地では高い市場シェアを維持しながらも、事業所数、従業員数、製造品出荷額が長期にわたって減少傾向を辿っており、技術や技能の継承を懸念する声も聞かれるようになっている。

また、グローバル化と技術革新が進む中で、あらゆるモノづくりの分野が変革を迫られている。こうした厳しい経済環境の中にあっても、当地域の企業には旧来の事業からエレクトロニクスなどの成長分野へと、事業を大きく転換したり多角化して発展を遂げている企業も少なくない。織機や陶磁器から出発して自動車やエレクトロニクス分野へと事業を多角化してきたトヨタ自動車やノリタケなどの森村グループに代表されるように、新たな時代を担う技術と製品を絶えず創出する革新(イノベーション)能力こそ、この地域に備わる最良の伝統であるといえよう。

名古屋大学大学院
助教授 山田 基成

●プロフィール
山田基成(やまだ・もとなり)  1954年生まれ。1977年名古屋大学経済学部卒業。1982年名古屋大学大学院経済学研究科博士課程終了後、助手。1991年名古屋大学大学院助教授。専門は生産管理論、中小企業経営論。2002年名古屋商工会議所『モノづくりブランド NAGOYA』選考委員会副委員長。

   (1) 豊田自動織機G型(1924年) 写真提供:産業技術記念館
   (2) 陶磁器の画付け 写真提供:ノリタケ・カンパニー・リミテド
   (3) プリウスS(2002年) 写真提供:トヨタ自動車
   (4) 日本最高のバイオリン製造会社 写真提供:鈴木バイオリン製造

※データ・内容は2005年5月現在のものです。